2009年7月29日水曜日

巨星の輝きを悼む〈若杉弘先生の訃報に寄せて〉

「ピノって最高よ〜ッ」。訃報に接した時、亡くなった現音事務局の「ちょくさん=佐々木 直」の甲高い、上ずった声を突然思い出しました。
 ピノとはピノキオのことで、直さんが呼んだ若杉さんのあだ名です。その直さんがヒイキにしたからではないのですが、現音でも大変お世話になったアーティストのひとりでした。「室内楽‘70」(ピアノ=若杉弘、ヴァイオリン=植木三郎、フルート=野口龍)での長年の活動や、オーケストラ作品での指揮など、多くの作品を世に送り出して下さったのです。いや海外の作品や日本初演の大作からオペラでの業績まで、枚挙に暇がない活躍でした。
 私は学生時代から「日本が生んだ天才音楽家」のひとりだと畏敬の念を抱いていました。とにかくクラシック・現代音楽とジャンル分け無く、ピアノ・指揮棒で“音楽の神髄”を私たちに伝えてくださいました。“うた”が素晴らしかったのです。三善先生の「ヴァイオリン協奏曲」を読売日響とリハーサルでまとめ上げて行く光景は、それだけでも感動してしまいました・・・私でさえ、少ない出会いから忘れ得ぬ世界へ誘ってくださったのですから、多くのファンの人びとはどんなに大きな輝きに満たされて来て、今どんなに悲しんでおられることでしょうか。真に“巨星”だったと思われます。いまその光が無くなったのではなく、音楽から生まれる多くの星々を包み込むスペースへ向けた準備の、マエストロにとって“優しさの一時”を楽しんでおられるように思われます。ご冥福を祈ります。
日本現代音楽協会 会長 坪能克裕

[写真]〈現代の音楽展1967〉プログラム冊子より。〈現代の音楽展〉が文化庁の助成事業として採択され、日本現代音楽協会の長年の念願であったオーケストラ公演を初開催した。指揮は故・若杉弘氏。

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