2010年2月16日火曜日

EPCoMワークショップ 小学校訪問レポート

EPCoMワークショップ 小学校訪問レポート
文責:松尾祐孝
(日本現代音楽協会/現代音楽教育研究プログラム研究部会長










皆さん、EPCoMってご存知ですか。Educational Program of Contemporary Musicの頭文字で、当協会の現代音楽教育プログラム研究部会の略称として使っています。この部会は、坪能会長の「現音・今昔」シリーズでも触れられている新しい創造教育を研究・実践・普及していく部会です。去る1月29日に、川崎市下の某小学校の4年生4クラスの授業にお邪魔をして、「音楽づくりワークショップ」を実施してきましたので、簡単にレポートいたしましょう。


[実施概要]
  参加メンバーは、私=松尾祐孝(ワークショップリーダー)と、EPCoM若手メンバーの西尾洋さん(サポーター)と田口雅英さん(サポーター)の計3名でした。早起き苦手人種の作曲家が朝早く8時半に小学校現地集合して、午前中45分授業4クラスをぶっ通しで頑張ってきました。
  事前に「何でも良いから自分の音を持ってくる」ことにしていて、その各自の音を活用しながら、短時間ではありましたが、アイスブレイク(全員で輪になって)〜自分の音の披露〜今日のテーマ発表「ロングトーンと同音連打」〜即興創作体験(松尾の指揮で全員一緒に即興音楽づくり)〜「ロングトーンと同音連打で音楽づくり」実践(3グループに別れて:各ブループのサポーター:田口、西尾、松尾)〜相互鑑賞会(3グループをそれぞれのステージを鑑賞)〜まとめ(鑑賞との連系の示唆)という進行で、各クラスとも楽しく盛り上がりました。
 西尾さん、田口さんも、「音楽づくり」のサポーター初体験とは言え、流石に作曲家の底力を遺憾なく発揮して、見事に生徒達をリードしていました。簡潔に言うならば、西尾グループは「連打パターンによる階梯導入〜全員のロングトーンによる音強変化によるクライマックス〜フェイドアウト」、田口グループは「連打の音回しと各人の音を聴き合いながらの音のやりとりの組み合わせ」、松尾グループは「ロングトーンによる導入〜連打による音回し〜全員のロングトーンによるクライマックス」というコンセプトが成立していました。

[鑑賞との連系]
  今般の学習指導要領改訂でも触れられている事柄ですが、「鑑賞との連系」は重要です。これが社会に浸透して行けば、一般大衆にとっても現代音楽が特別に難解なものではなくなる可能性があります。「ベートーベンの[運命]の出だし”ジャジャジャジャーン”だって、”ジャジャジャ”の同音連打と”ジャーン”のロングトーンの組み合わせだよ」という話に、生徒が興味津々で食いついてくれて嬉しかったです。


[給食]
 昼休みの給食をご馳走になりました。3人別々のクラスで4年生の教室で生徒と一緒にいただきました。昭和40年代の学校給食で育った私にとっては、
 うどんや焼きおにぎりが並ぶ給食は初体験で、とても美味しかったです。活発な生徒達はとてもお腹が空いていたらしく食欲も旺盛、みんな残さずきれいにたいらげていました。ご馳走さまでした!


[感想]
 専門的訓練を受けていない一般の小学生との音楽づくり体験は、久しぶりで新鮮でした。「人間の持つ根源的な表現欲求と先入観に全く捕われない表現方法の刺激的な出会いが、世界で一つの自分たちの音楽ステージを生み出していく様」は正に芸術創造の原点であると、あらためて感じ入りました。訪問した小学校は、全体の雰囲気が非常に健康的で明るく、先生方も熱心に真摯に何事にも取り組まれ、生徒も屈託なく明るく成長している印象を受けました。とかく学校教育、特に公立学校の荒廃が話題になる事も散見されますが、「まだまだ日本の学校は力があるぞ!」と思わせてくれた今回の学校訪問でした。先生方の弛まぬご努力が生徒の反応の端々に感じられ、感心しきりでした。我々も頑張らなくては!

2010年2月11日木曜日

<現代の音楽展2010>への出品に寄せて

<現代の音楽展2010>への出品に寄せて
今回の<現代の音楽展2010>に出品する松尾祐孝です。
今回は、二十絃箏を独奏に据えた大作2曲を発表いたします。今年度は、二十絃箏が1969年に誕生してから40周年にあたります。そのお祝いの気持ちも込めて、邦楽器合奏との協奏曲=<糸の書>と、オーケストラとの協奏曲=<フォノスフェール第4番-a>の両作品を、日本音楽集団や各方面との協働の下に準備してきました。
当協会創立80周年と合わせた記念の節目に、姉妹作を一挙に発表できることに感慨無量です。
並行して作曲したので、曲想はかなり異なるものの、両曲は独奏パートの相当部分を共有しています。
二十絃箏独奏が、時に合奏と融合し時に反発しながら、音(phono)空間(sphere)を生成していきます。特に後者では、左右対称に分割した弦楽器群、後方の管楽器群、下手・中央・上手から呼応する打楽器を従えて中心に位置する二十絃独奏が、縦横無尽にその魅力を発散します。吉村七重さんの渾身の独奏が、作曲者としても今から楽しみです。
様々な時代に誕生した伝統音楽が数多く息づき、普遍性と独自性を持つ逞しい伝統楽器を数多く有する
日本に生まれた文化の恵に感謝しつつ、邦楽器の協奏曲的作品をライフワークの中心として、これからも作曲活動を展開していきたいと考えています。拙作のみならず、箏作品と箏奏者のラインナップが壮観な<箏フェスタ>と和洋楽器4種の協奏曲が揃い踏みする<コンチェルトの夕べ>のプログラム全体に、どうぞご期待ください。

(記:松尾祐孝)