常日頃から現代音楽界に於ける邦人作品はその質でも量の豊富さでも世界のトップレベルを行くものだと思っております。日本現代音楽協会を初めとして、それをもっともっと前進させて行こうという運動があり、大きな流れとなっているのも嬉しいことです。実際に演奏されるチャンスはまだまだ少なく、経済的にも難しいのも確かです。
私が現代音楽と本格的に取り組み、演奏したのは1960年に初演させて頂いた矢代秋雄先生のチェロコンチェルトでした。技術的にも難しく、表現という面でもそれまで演奏してきたものと違っておりましたので、最初は本当に苦労しました。杉並公会堂での世界初演の後、その秋のNHK交響楽団の世界旅行でワルシャワとローマで演奏出来たのは素晴らしい体験となりました。
でも私が本当に現代曲に目覚めたのは国際コンクールで優勝し海外で演奏活動をするようになってからです。いわゆるスタンダードプロでプログラムを組んでいたのですが、外国の聴衆から「貴方の演奏は素晴らしいけれども何故日本人の作品が含まれていないのですか」と聞かれハッとしてからなのです。
私はアメリカに留学しJ.シュタルケル氏に師事しました。先生は未だコダーイのソロソナタが一般には知られていなかった頃からその作品の演奏に取り組まれました。現代に生きる演奏家の使命として現代作品と積極的に取り組むべきだ、という強い信念をお持ちでした。今でもお会いする度に「今どんな作品を勉強しているか。最近初演した曲があるか」と尋ねられます。
M.ロストロポービッチ氏の存在を忘れてはなりますまい。ロシア人を含め実に多くの作曲家が彼のために作品を書かれました。卓越した理解力と技術を持ってどんな難しい作品でも軽々と弾いてしまわれました。パリで彼の名前を冠した国際コンクールが催されますが、課題曲には必ず書き下ろしの新曲が入っています。技術的に至難な曲が多いので審査員の中からも「こんなに難しい作品にしなくても良いのではないか」という意見が起るのですが、氏は「作曲家の皆さんがそのような作品を書いてくれるのは私達にとって本当に有難いことなのです。それによってチェロ演奏に新しい可能性が生まれ、レパートリーが拡がって行くのですから」と言われました。
作曲新人賞の募集テーマとして「人間性と共に歩む現代音楽」を提案させて頂きました。その理由の一つは「現代音楽」だから故に現実離れしている必要はない訳ですし、お客様と喜びをシェアしても良いと思うのです。でもそのためにはその作品が聴き手と共感し得る人間性を備えていることが大切です。音楽の本質はコミュニケーションですし、それが確実に行われるためには心から心へと伝わるメッセージが無くしてはならないからです。今自然環境の保護と人間環境の改善が声高に叫ばれておりますが、そのような事も作品の中に生かせないものでしょうか。私はチェリストですので常に楽器としてのチェロの可能性を追い求めておりますし、チェロを人間の声として響かせてくれる作品が現れる事を期待しているのです。
2009年度芸術監督:堤剛
0 件のコメント:
コメントを投稿