2010年10月3日日曜日

2台のハープのための無言歌 中川俊郎

①一見「歌」とはほど遠いバリバリの現代音楽に、「無言歌」というタイトルをつけた理由は、音楽というのは根本的に、何らかの歌(または「誰か」の声)であるという、私個人の考えに基づいています。
歌には感情や、感情をともなった思想が宿ります。 「祈り」も歌に宿り、わたしたちを今ここではない、どこか素晴らしい場所…、または、私たちが自分で気づいていない、私たちの心の奥底(心理学でいう、潜在意識を感じられる場所?)へ一時的に誘(いざな)い、元気づけてくれさえします。
私のような前衛的な作風でも、こうした効果があることを信じています。

②作品の書法について。 ハープは、本質的にダイアトニック(全音階的)な楽器です。オクターブ内に7つの音しか設定できません。つまり作曲家の中に隠れているダイアトニック性、旋法性と、自ずから向き合わなくてはならなくなります。私は、これを作曲家にとって自分の作風を広げるありがたいチャンス! 柔軟性を試される好機…と受けとめることにしました。 それでも、頻繁なペダルシフトを要求する事態になってしまいました(泣)ので、偉そうなことはいえません。
私の苦心惨憺はみもの(!?)だと思いますから(同時に、申しわけないですが、名演奏家お二人のアクロバットも!)、物見遊山で聴きにいらして下さると、ありがたいです。

③引用について。「ひとの褌(ふんどし)で相撲をとる」こと。これは難しい。自分が履けるサイズかどうか見極め、また洗濯をし、持ち主の垢を落とさなければなりません。     
私にとって引用は、他人と自分はどこかでつながっている…(どんな人どうしも)、という私の発見を唱え、表明する手段でもあります。

④アクロバットといえば、曲の冒頭です!  左足を右ペダルに移して、操作するために、身体を捻るなり、無理な姿勢をとらなくてはなりません。このために奏者に対しては、スカートでなくズボンの着用が、義務づけられています(!)。             


⑤10/4に演奏されるのは、二台のハープ版ですが、さらに10/24(土)に、一台のハープとエレクトロニクスによる「無言歌 B.」 が、蒲池愛さんとの新たな共作、ハーピストも斎藤葉さんにバトンタッチして、発表の予定です。両者を聴き比べることによって、変奏、またはバロック組曲の「ドゥーブル(ダブル)」、また一曲丸々「引用」ともいえる興味深い概念を、じっくり味わうことが出来ると思います!
 


中川俊郎

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