2011年2月28日月曜日

ニューヨーク、ワシントン報告〜福士則夫


■撮影者:ken Howard
■撮影場所:エンゲルマン・リサイタルホール(ニューヨーク)
■演奏曲目:福士則夫作曲「満月の夜に」(ミュージック・フロム・ジャパン委嘱作品世界初演)
■演奏者:メゾソプラノ/青山恵子、能管/西川浩平


 ミュージック・フロム・ジャパン2011年音楽祭36周年シーズンは2月12日、近くの公園にはまだ雪の残るニューヨーク、バルーク大学内エンゲルマン・リサイタルホールにおいて「東の笛、西の笛」と題し、フルートと篠笛・能管奏者、西川浩平とアメリカ人作曲家兼フルート・尺八奏者、エリザベス・ブラウンによるデュオ・コンサートによって開幕した。古典物から始まったのち西川浩平の能管による猿谷紀郎「彩層」は、幾重にも連なる墨絵の山々を連想させるが、その熱き頂を降りると静謐な世界が広がり、日本に興味を持ち、ある種のイメージを持っているアメリカ人には最も親しめる作品であったように思われた。アメリカ初演の岡坂慶紀「オルフェウスまたは恋の音取り」を演奏したエリザベス・ブラウンはロジカルな音楽のうねりをしばしばせき止める休止が、音楽の有機的な持続に離反しているように思えて日本人ならどのような「間」を作るのだろうかと、考えさせられる演奏であった。エリザベス・ブラウンの6章からなるMFJ委嘱作品「月への断章」は各章それぞれ興味深かったが、二管の全く性格の全く異なる楽器による揺れや、差音から生じる音響などが展開する一方、全く異質なフィギュレーションがぶつかり合う時間があり、その構成の組み立てが興味深かった。最後に演奏された平義久「シンクロニー」の後半、二人の掛け合いは相手をなぎ倒すような気迫に幾分欠けていたように感じられたのが少々残念であった。


 満席の初日に比べて2日目の13日は少し空席が有り、日本語による歌曲というハードルが関係したのだろうか。しかしながらそれを乗り越える青山恵子のパフォーマンスは圧巻であった。日本名歌集の後半、團伊玖磨「彼岸花」からスイッチが切り替わるように変貌したのち、増本伎共子「夜」の恐ろしく身近に迫ってくる凶器のような世界に打たれた。休憩後、福士則夫のMFJ委嘱作品「満月の夜に」は竹取物語の61話中50話目の話で、翁にかぐや姫が別れを告げる場面をテキストにしているが、語り手・翁・かぐや姫のキャラクターを見事に演じ分けた演奏であった。能管の<ひしぎ>が刺激的でアメリカ人に拒否反応が出る心配はあったが、演奏後行われた聴衆とのディスカッションにおいて特に問題とはされなかった。後半は再び増本作品で「シテテン」は「夜」とは真逆の世界で間宮芳生「杓子売り歌」と並んで楽しめる佳作である。早坂作品から再び<ニッポン>を意識した作品が並ぶが、橋本國彦「舞」のド派手な世界に辟易しながら、国外での今やもうこうしたもので幕を下ろすやり方も必要なくなってきているのではないだろうかと感じた。


 近代的高層ビルと古めかしいビルが混在し、暖房と関係あるのだろうか至る所で白い煙が立ち登り、タクシーのクラクションやパトカーの派手なサイレンが響き渡り、信号を無視した人々が早足ですれ違うニューヨークとは打って変わって、静かで整えられたワシントンへ2月15日に移動し、翌16日にはスミソニアン・フリーア美術館にある古めかしいホールでニューヨーク公演曲目から抜粋したものが演奏された。尺八・篠笛による古典、日本名歌集、増本作品「夜」、エリザベス・ブラウン「月の断章」、福士則夫「満月の夜に」、平義久「シンクロニー」、橋本國彦「舞」にワシントンの聴衆は好意的に時間を共有したように思えた。また西川浩平の多芸多才に思わず引き込まれ、塚田佳男のまさに歌のツボを知っている行届いたピアノ伴奏を特に明記しておきたい。なお演奏会に先立って9日にコロンビア大学内ドッジホールに於いて増本、福士による講演会が同大の大西義明氏による通訳で行われたことを付記しておく。


 それにしても36年間、日本の古典と新しい作品を提供し続けるMFJの三浦尚之さん、小野真理さんに頭が下がるばかりである。その停まることのない情熱によって演奏家、作曲家が応えているのがこの企画なのだと思うが、支援の輪を今以上に広げなければと切実に感じた。

2011年2月25日金曜日

「世界に開く窓」プロデューサー福井とも子より

ルイ・アンドリーセン「workers union」のリハーサルに立ち会っている。

この曲は楽譜が不確定な要素を含んでいる。リズムは厳格に書いてあるが音の高さは決められていない。ただし各楽器のおおよその音域と音形が示されている。因みに楽器も不確定。これだけの情報を基にどうやって音楽を創るかが難しいけれどおもしろいところ。

今回のメンバーはフルーティスト木ノ脇道元氏によって集められたメンバー。かなりのツワモノぞろいで編成もおもしろい。作曲者の狙い通りアグレッシブな演奏に仕上がって・・・いや、仕上がるという言い方はなんかピンとこない。仕上がらずできあがってしまわず、このまま過激に突っ走ってほしいと思う。

・・・これ・・・聴かなきゃモッタイナイ・・・・と思います・・・・!!


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2月26日(土)「世界に開く窓」公演は、学校内での公演のため、当日券の販売は行いません。ご来場ご希望の方は、下記にお振込の上、振込控えをご持参下さい。当日会場でチケットとお引き換え致します。

▼三井住友銀行 目白支店 普通 6360842 加入者名:日本現代音楽協会

インターネット生中継決定!!!

「世界に開く窓」の冒頭30分間(午後4時~4時30分)をUSTREAMで配信します。下記にアクセスしてご覧下さい。
http://www.ustream.tv/channel/jscm

2011年2月23日水曜日

世界に開く窓〜ピアニスト・中村和枝さんよりメッセージ

 こんにちは、ピアノの中村和枝です。今週末2月26日(土)に開催される「世界に開く窓~ISCM“世界音楽の日々”中心に~西欧特集」にて、H.Lachenmannの《Ein Kinderspiel》を演奏いたします。

 “子供の遊び”と言いながらもその内容は大変深く、高度な知性とキュートな童心、ラッヘンマンの人間としての魅力に溢れた素晴らしい曲です。特殊奏法のアイデアもとても楽しくて音楽的! 練習していて、子供の頃に兄の練習しているピアノの下に潜り込んでミュートして遊んで(邪魔して)いた事が突然フラッシュバックしたりして。私もすっかり童心に返り楽しく弾いています。(かなり体力は必要なのですが・・・)

 私にとって現音・音楽展は、現代音楽のピアニストとして初めてプロの舞台に立たせていただいた場所でもあり、その後も多くの曲を弾かせていただき貴重な体験を積ませていただいた、言わば“ホーム”のような存在です。会員の作曲家の方々との交流も多く、今年初めには松平頼曉先生のピアノ作品『24のエッセーズ』のCDリリース(レコード芸術3月号にて「特選盤」に選ばれました!)、また来る3月28日(月)杉並公会堂小ホールで行う claviarea(作曲家・山本裕之氏との現代音楽ユニット)公演では、『24のエッセーズ』よりの抜粋と、湯浅譲二先生、かつて「現音作曲新人賞」に入選した田中吉史氏、そして山本裕之氏の作品によるリサイタルを行います。また9月には同じく会員の梶俊男氏作曲のオペラにピアノトリオで参加予定です。

 作曲家の方々と共に未来の音楽を作っていくのは、本当にエキサイティングでヴィヴィッドな体験です。そんな現場を目撃に!皆様のご来場をお待ちしております。


写真は今年の新年会の福引で頂いた「福士則夫理事賞」のシャブリ。ワイン通なら良く知っている有名なドメーヌ(作り手)の物なのだそうです。流石は福士先生!有難うございました。今年は春から幸先良いです。

▼中村和枝オフィシャルブログ

2011年2月16日水曜日

宮本妥子パーカッションレクチャー「閾-しきい-を超えて」

宮本妥子パーカッションレクチャー「閾-しきい-を超えて」

2011年2月18日[金]19:00~
京都芸術センター1Fフリースペース

▼アクセス:京都市営地下鉄烏丸線「四条」駅、阪急京都線「烏丸」駅22番出口・24番出口より徒歩5分
http://www.kac.or.jp/access

講師:宮本妥子(マリンバ・打楽器奏者、clumusica)

★クセナキス作品ほか実演付

 






関西における現代音楽の活発な発展を願い、日本現代音楽協会が団体80周年記念事業として行っている第1弾上田希クラリネットレクチャー&リサイタルに続く第2弾。関西を中心に世界的に活躍するパーカッショニスト宮本妥子とのコラボレーション。京都でのリサイタルでの作品募集に先立ち、プレ企画として、宮本妥子の経験してきた様々な打楽器作品のさまざまな側面を現代奏法、記譜法を、実演を交えて解説します。宮本のために書かれるソロ作品を一般公募し、3作品を選びリサイタルで演奏する予定。リハーサル場所はリサイタルの行われる現地。無料で、宮本妥子との充実したリハーサルを提供。その作品選考には、関西圏(京都、大阪、奈良、兵庫、滋賀、和歌山など)から各1名、その隣接文化圏(中部や中国四国等)から1名、対比文化圏(関東、九州、東北など)から1名による、数名の現音会員の作曲家たちと共に宮本妥子があたり、このリサイタルでは会場の聴衆のみなさま全員に投票を依頼します。その場で選ばれた1作品を招待作品とし、東京での現音主催演奏会(2012年)での上演にそなえます。世界に開く窓はここにもあります。あなたの一曲を、ぜひ京都に連れていらしてください。(企画・恊働 中村典子)

◎主催:日本現代音楽協会
◎共催:京都芸術センター

▼アクセス:京都市営地下鉄烏丸線「四条」駅、阪急京都線「烏丸」駅22番出口・24番出口より徒歩5分http://www.kac.or.jp/access

講師:宮本妥子(マリンバ・打楽器奏者、clumusica)

2011年2月7日月曜日

「世界に開く窓」は世界一周して西欧到達。南極征服も!?

《協創 新しい音楽のカタチ》現音・特別音楽展2010
世界に開く窓~ISCM“世界音楽の日々”を中心に~西欧特集

2011年2月26日[土]15:30開場/16:00開演
日本大学藝術学部音楽小ホール(江古田キャンパス東棟6階)

▼学校までのアクセスhttp://www.art.nihon-u.ac.jp/access/
▼学内案内
http://www.art.nihon-u.ac.jp/about/campus/map.html



これまでアジア、東欧、中南米、北欧、北米と世界の作曲家を巡ってきたこのシリーズの最終地は西欧。激戦区とも言えるこの地からドイツ、イタリア、フランス、オランダの4人の作曲家を取り上げます。(制作:国際部・松平頼曉・福井とも子)

●水野みか子(日本)/七ツ寺(作曲2009年)
ラジオフォニック作品
→〈ISCM世界音楽の日々2010オーストラリア大会〉入選曲です。

●ヘルムート・ラッヘンマン(ドイツ)/子供の遊び(作曲1980年)
中村和枝(ピアノ)
→「子供の遊び」と言いながら、その後の創作活動へと繋がるアイデアに満ちた重要な作品です。

●フランチェスコ・フィリデイ(イタリア)/ガリアルダ(作曲2001-2006年)
多井智紀(チェロ)
→話題沸騰中の若手作曲家フィリデイ。彼の篤い信頼を得て多井智紀が熱演いたします。

●トリスタン・ミュライユ(フランス)/南極征服(作曲1982年)
大矢素子(オンド・マルトノ)
→フランスで研磨を積み、帰国したばかりの大矢素子によるオンド・マルトノ演奏です。

●ルイ・アンドリーセン(オランダ)/ワーカーズ・ユニオン(作曲1975年)
木ノ脇道元(フルート)西川智也(クラリネット)江川良子(テナーサクソフォン)
佐藤洋嗣(エレキベース)川𥔎翔子(ピアノ)
→アグレッシヴなサウンドに心奪われるこの曲は、楽器も音も不確定。木ノ脇率いる一夜限りの演奏家ユニオン、圧巻です!

◎協力:日本大学芸術学部




全自由席1,000円(完全予約制/前売りのみ、当日券販売予定はありません

★チケットのお求めは日本現代音楽協会まで

電話:03-3446-3506(平日10:00~17:00)

メールでお申し込みの場合は 80th@jscm.net 宛に下記の項目をお書き添えの上お送り下さい。折り返し料金の振込先をお知らせし、振込が確認された時点でチケットをお送りします。

1. 氏名
2. 枚数
3. 送付方法 普通郵便は送料無料/簡易書類郵送は300円



2011年2月4日金曜日

EPCoMワークショップ 小学校訪問レポートvol.3


EPCoMワークショップ 小学校訪問レポートvol.3
 文責:松尾祐孝
(日本現代音楽協会/現代音楽教育研究プログラム研究部会長)

 皆さん、EPCoMってご存知ですか。Educational Program of Contemporary Musicの頭文字で、当協会の現代音楽教育プログラム研究部会の略称として使っています。この部会は、坪能会長の「現音・今昔」シリーズでも触れられている新しい創造教育を研究・実践・普及していく部会です。今年度は、川崎市下の某小学校の授業に、6月・9月そして1月に各4回ずつお邪魔をして、それぞれ3年生・2年生・1年生の各学年5クラスで2回ずつ、つまり各月10回の授業を3クールですので合計30回の「音楽づくりワークショップ」を実施してきました。最終クールとなったこの1月は、私も初体験の1年生でした。どうなることかという心配もありましたが、蓋をあけてみれば素直な児童と打ち解けることができて、とてもスムーズに「音楽づくり」を楽しむことができました。以下に簡単にレポートいたしましょう。
[実施概要]
  今回も、私=松尾祐孝(ワークショップリーダー)に加えて、EPCoMメンバーや音楽教育プログラムに関心の有る若手の作曲家や演奏家の方々が、都合のつく日に駆けつけてくださいました。小学1年生ということで、抽象的な思考はまだ難しいと考えられたので、“音楽動物園”をテーマに設定して、「自分の好きな動物を考えておくように」ということだけを事前に伝えておいて、当日を迎えました。
  [1回目] アイスブレイク(全員で輪になって)〜今日のテーマ発表「音楽動物園を創ろう!」〜を確認〜プロムナード・リズム・パターンを皆で考える〜第1回音楽づくり体験(全員で輪になって、各自の動物のお披露目とその全員リピートにプロムナード・リズム・パターンを挟んで全員一回りして、最後に皆でクライマックスを作って終わり/ワークショップ・リーダーが主導)〜体験したことの確認〜第2回音楽づくり体験(第1回と同じ段取りでもう1回)〜
 まとめ
  [2回目] アイスブレイク(全員で輪になって)〜テーマ再確認「音楽動物園を創ろう!」〜第3回音楽づくり体験(4グループに別れて:各ブループにサポーターが参加)〜相互鑑賞会(4グループをそれぞれのステージを鑑賞/今回は尺八奏者がサポーターとして参加していたので、各グループの作品を尺八の即興演奏で繋いで一連のステージにしてお披露目)〜(尺八に興味を持ったところで)尺八の即興演奏を身体で自由に表現しようコーナー!〜まとめ(鑑賞との連系の示唆)という進行で、各クラスとも楽しく盛り上がりました。
 サポーター初体験の若手音楽家の皆さんも洞察力と音楽性を遺憾なく発揮して、見事に生徒達をリードしていました。今回特にご協力いただいた尺八奏者=山口賢治さんの参加で、本物の音、日本の音にも興味を持つ機会を提示できたことは、とても有意義でした。
 [感想と展望]
 専門的訓練を受けていない一般の小学生との音楽づくり体験は、これまでの4〜2年生授業に続いてやはり新鮮でした。「人間の持つ根源的な表現欲求と先入観に全く捕われない表現方法の刺激的な出会いが、世界で一つの自分たちの音楽ステージを生み出していく様」は正に芸術創造の原点であると、あらためて感じ入りました。小学1年生でも、多少の具体性を加味していけば十分に実践が可能という手応えを得ることができました。
 お陰様で訪問先の小学校から好評を得ることができて、来年度のこのプロジェクトの継続も決まりました。EPCoMで今年度の成果を分析・検討して、更にリファインした内容で臨みたいところです。